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  • 2025.01.08

歯茎下がりの治療(根面被覆)について

歯茎下がりの治療(根面被覆)について

根面被覆(こんめんひふく)治療とは

根面被覆術は、歯肉が下がって歯の根が露出してしまった部分を覆う治療法です。この治療は歯の美観の改善、知覚過敏の緩和、歯周組織の健康維持を目的としています。主に歯周形成外科の技術が用いられます。


治療の手順

1. 初診と診断

  • 口腔内の状態を評価
    • 歯肉退縮の原因を特定(歯周病、過度のブラッシング、不正咬合など)。
    • 歯の動揺(歯が動く状態)や歯周ポケットの深さを確認。

歯肉退縮の進行度を評価するために、臨床で広く使用されている分類が Cairoの分類Millerの分類 です。それぞれの分類は異なる観点から歯肉退縮を評価し、治療方針の決定や予後の予測に役立ちます。


1. Millerの分類

Millerの分類は、歯肉退縮の程度とその予後(根面被覆の可能性)を評価するために1985年に提案された分類法です。

分類基準

  1. クラス I
    • 歯肉退縮が歯槽骨と歯肉の接合部(歯間乳頭)の範囲内に限定される。
    • 歯槽骨や歯間乳頭には欠損がない。
    • 根面被覆術により完全な被覆が達成可能。

  1. クラス II
    • 歯肉退縮が歯槽骨頂を超えて拡大しているが、歯間乳頭は健康な状態を保っている。
    • 歯槽骨の欠損はない。
    • 根面被覆術により完全な被覆が達成可能。

  1. クラス III
    • 歯肉退縮が歯槽骨頂を超えており、歯間乳頭が部分的に失われている。
    • 歯槽骨の欠損または歯の位置異常が見られる。
    • 根面被覆術による完全被覆は困難だが、部分的な被覆は可能。

  1. クラス IV
    • 歯肉退縮が歯槽骨頂を超えて広がり、歯間乳頭が完全に失われている。
    • 歯槽骨の欠損や歯の位置異常が顕著。
    • 根面被覆術での被覆はほぼ不可能。

特徴

  • 簡便かつ直感的で、主に予後の予測に重点を置いている。
  • 欠点として、骨欠損や歯間乳頭の状態に基づいて分類するため、軽度の歯肉退縮の詳細な評価には適していない。

2. Cairoの分類(RT:Recession Type)

Cairoの分類は、2011年に提案され、歯肉退縮と歯周ポケットの深さ、および付着喪失(CAL: Clinical Attachment Loss)を総合的に評価するものです。

分類基準

  1. RT1(Recession Type 1)
    • 歯間部(隣接する歯の間)の付着喪失がない場合。
    • 歯肉退縮は歯間乳頭に影響を及ぼしていない。
    • 主に審美的な問題が中心で、根面被覆術の予後が良好。

  1. RT2(Recession Type 2)
    • 歯間部の付着喪失が存在し、歯間乳頭の歯周組織が部分的に失われている。
    • 歯肉退縮と歯間乳頭の付着喪失の程度が類似。
    • 根面被覆術では完全な被覆が困難な場合がある。

  1. RT3(Recession Type 3)
    • 歯間部の付着喪失が歯肉退縮よりも大きい場合。
    • 歯間乳頭の歯周組織が大幅に失われている。
    • 根面被覆術の適応外となることが多い。

特徴

  • 歯間部の付着喪失を評価に組み込むことで、従来のMillerの分類では困難だったケー
  • スを詳細に評価可能。
  • より包括的で、歯周治療や予後評価に優れている。

Miller分類とCairo分類の比較

項目 Miller分類 Cairo分類
基準 歯槽骨と歯間乳頭の状態 歯間部の付着喪失と退縮部の状態
評価対象 審美的改善と根面被覆の予後 歯周組織全体の状態
簡便性 簡便で直感的 より詳細で包括的
臨床適用 審美性重視 歯周病患者の評価に有効
予後の判断精度 やや主観的 客観性が高い

臨床での活用例

  • 軽度の歯肉退縮
    • Cairo RT1やMillerクラスIの場合、審美的な改善を目的に根面被覆術を推奨。
  • 重度の歯肉退縮
    • Cairo RT3やMillerクラスIVでは、根面被覆術よりも歯周病治療や補綴治療が優先されることが多い。

まとめ

  • Millerの分類 は簡便で予後評価に優れ、主に審美的改善を目的とした治療の適応に適している。
  • Cairoの分類 は、歯周組織全体の状態を評価し、歯周病の重症度や治療計画に役立つ。

両分類を適切に使い分けることで、患者の歯肉退縮の状態を正確に評価し、適切な治療を選択することができます。

  • 治療計画の立案
    • 根面被覆術が適用可能か判断。
    • 他の治療(歯周病治療や矯正)が必要な場合、優先して行います。

根面被覆の術式選択

根面被覆術は、歯肉退縮の治療において審美性と機能性を回復する目的で行われます。術式選択は、歯肉退縮の程度、患者の全身的・局所的条件、治療目標に基づいて決定されます。


結合組織移植術(Connective Tissue Graft: CTG)

根面被覆の際、結合組織を口蓋から採取し、移植することがあります。

採取した部位は、縫合します。採取された部位は、約4ヶ月ほどで再生します。

根面被覆術において、結合組織移植術(CTG: Connective Tissue Graft)を併用することで成績が良くなることは、多くの研究において支持されています。その理由は、結合組織移植術が以下のような利点を提供するためです。

1. 治癒の促進と生着の改善

CTGを併用することで、移植部位に健康で血流の豊富な結合組織を供給できます。この組織は細胞増殖を促進し、根面を覆う軟組織の厚みと安定性を向上させます。これにより、移植された組織が根面に生着しやすくなります。

2. 軟組織の厚みと安定性の向上

CTGは軟組織の厚みを増すことで、歯肉退縮の再発を防ぎます。厚みのある組織は機械的な力や環境ストレス(歯磨き圧など)に対して耐性があり、長期的な安定性が向上します。

3. 審美的結果の改善

CTGは歯肉の質感や色調を周囲組織と調和させる能力が高いことが示されています。特に審美ゾーン(上顎前歯部)では、審美的な結果が治療成功の重要な要素となります。

4. 高い完全根面被覆率

システマティックレビューやメタアナリシスでは、CTGを併用した場合の完全根面被覆率が他の方法(例えば歯肉弁術単独)と比べて有意に高いことが報告されています。

エビデンス

以下は根面被覆術におけるCTGの有効性を示す主な研究です:

  • Cairo et al. (2008): システマティックレビューにより、CTGを併用した場合の完全根面被覆率が他の方法より高いことを示しました。
  • Santamaria et al. (2009): CTGを併用した治療が歯肉厚を増加させ、歯肉退縮の長期的安定性を向上させることを報告。
  • Aroca et al. (2010): CTGは、審美的および機能的な結果において、歯肉弁術単独よりも優れていることを明らかにしました。

結論

結合組織移植術は根面被覆術の成功率を向上させ、治療の安定性と審美性を長期的に確保するための重要な手法です。エビデンスに基づく研究により、その有効性は確立されており、特に厚みの不足した歯肉や審美的配慮が必要な症例では推奨されます。


術式の種類と特徴

以下は代表的な根面被覆術式です。それぞれの適応、利点、欠点を詳しく説明します。

1.歯肉弁歯冠側移動術(Coronally Advanced Flap: CAF)

  • 歯肉を歯冠方向に移動させ、根面を覆う手法。
  • 適応:
    • 歯肉退縮が軽度~中程度で、隣接する歯肉に十分な厚みと幅がある場合。
    • CairoのRT1やMillerのクラスI, IIに適している。
  • 利点:
    • 単純で、比較的予後が良い。
    • 単独歯から複数歯の根面被覆が可能。
  • 欠点:
    • 歯肉が薄い場合には再退縮のリスクがある。
    • 歯周ポケットが深い場合には不適。

2.モディファイドランガーテクニック(Modified Langer Technique)

    • 歯間部の歯肉に横切開および歯肉溝切開を行う。部分層弁にて切開し、一部上皮付きの結合組織をフラップ内に留置し、縫合にて固定する方法。
    • 適応:
      • 単独歯から複数歯の歯肉退縮に対応可能。
      • 角化歯肉が少ない場合でも対応可能
    • 利点:
      • 様々な症例に対応できる。
      • 角化歯肉の増大が期待できる。
    • 欠点:
      • 歯間部の横切開部に瘢痕が残る可能性がある。

3. 遊離歯肉移植術(Free Gingival Graft: FGG)

  • 歯肉を口蓋などの別部位から採取し、退縮部に移植する方法。
  • 適応:
    • 歯肉の幅が非常に狭い場合。
    • 特に後臼歯部で、清掃性改善を優先する場合。
  • 利点:
    • 角化歯肉の幅を確保しやすい。
  • 欠点:
    • 術後に歯周パックを行い、術部を保護する必要がある。
    • 審美的にはCTGより劣る。

4. トンネル法(Tunnel Technique)

治療前

歯肉溝から切開をするため、非常に傷口が小さい。

結合組織を移植後縫合を行った状態

完全根面被覆を達成。

  • 歯肉を持ち上げてトンネル状のスペースを作り、移植片や再生材料を滑り込ませる方法。
  • 適応:
    • 審美的改善が重要な場合。
    • 退縮部周囲の歯肉が薄いケース。
  • 利点:
    • 縫合が少なく、患者の負担が軽い。
    • 術後の瘢痕が少なく、審美的に優れる。
  • 欠点:
    • 術式が高度で熟練が必要。
    • 血流の確保が難しい場合がある。

ここで、現在注目の術式をご紹介いたします。

VISTAテクニック(Vestibular Incision Subperiosteal Tunnel Access Technique)

VISTAテクニックは、歯ぐきが下がった部分(歯肉退縮)の根面を覆うための比較的新しい術式です。歯肉に小さな切開を加えてトンネル状の空間を作り、そこに移植片や再生材料を挿入して歯肉を引き上げる方法です。この手法は、主に審美性や機能性の回復を目的とし、従来の術式に比べて患者の負担が軽減される点が特徴です。


適応症

  1. 軽度から中程度の歯肉退縮
    • Cairo分類RT1またはRT2の症例に適しています。
    • 歯肉退縮が複数歯にわたる場合にも有効。

  1. 審美性が重要なケース
    • 前歯部や笑った際に見える部分の歯肉退縮。
  2. 歯肉が薄い症例
    • 歯肉が薄い場合でも移植片を組み合わせて厚みを補えるため、適応範囲が広い。
  3. 複数部位の歯肉退縮
    • 一度の手術で複数歯の治療が可能。

  1. 知覚過敏の軽減が必要な場合
    • 歯根が露出して知覚過敏が生じているケース。

利点

  1. 高い審美性
    • トンネル法を利用することで歯肉の自然な形態を保つことができ、目立つ部位でも見た目が良好。

治療前

治療後

  1. 複数歯の治療が可能
    • 一度の手術で複数の歯に対応でき、治療時間を短縮できる。
  2. 長期的な安定性
    • 移植片や再生材料を併用することで、歯肉の厚みが増し、長期的に安定した結果が得られる。
  3. 再生療法との併用が可能
    • リグロス(bFGF)やエムドゲイン(エナメルマトリクスプロテイン)を併用しやすく、組織再生と根面被覆を同時に達成できる。
  4. 成功率の高さ
    • 結合組織移植や再生療法を併用することで、完全被覆率が85~100%と報告される(Arocaらの研究, 2013)。

欠点

  1. 高度な技術が必要
    • 術式が高度で、術者の熟練度が結果に大きく影響するため、経験豊富な歯科医師でなければ成功が難しい。
  2. 供給部位の不快感
    • 結合組織を採取する場合、口蓋からの採取による一時的な痛みや腫れが伴う。

  1. コストが高い
    • 再生材料(リグロスやエムドゲイン)を使用する場合、治療費が高額になる。
  2. 適応の制限
    • 歯槽骨の欠損が大きい場合(Cairo分類RT3やMiller分類クラスIV)には不向き。
    • 歯間乳頭が大きく失われているケースでは、審美的結果が限定的。
  3. 術後の管理が重要
    • 術後の適切なケアが必要で、患者の協力が結果に影響を与える。

エビデンス

  1. 成功率
    • Arocaら(2013)の研究では、VISTAテクニックと結合組織移植を併用した場合、85~100%の完全被覆率が報告されており、特に審美的改善が顕著であるとされています。
  2. 患者満足度
    • Allenら(2014)は、VISTAテクニックによる治療後の患者満足度が高く、術後の快適さや審美的結果が良好であることを示しました。
  3. 長期安定性
    • Zucchelliら(2016)の研究では、術後5年以上にわたり安定した歯肉形態が維持され、再退縮のリスクが低いことが確認されています。
  4. 審美性
    • Tintiら(2017)は、VISTAテクニックが特に前歯部での審美的改善に優れていることを報告しています。

手術手順の概要

1.切開の実施(トンネルの形成)

    • 歯肉の歯冠側(唇側)に小さな切開を加え、歯肉弁をトンネル状に形成。
    • 歯肉弁を歯根部から剥離して、移植片や再生材料が挿入できる空間を作る

2.移植片または再生材料の挿入

    • トンネル内に結合組織移植片やリグロス、エムドゲインなどを挿入。

3.歯肉弁の固定

    • トンネル状の歯肉を冠側に移動し、歯根を覆うように縫合。

5. 再生療法(Regenerative Techniques)

  • リグロス(bFGF)やエムドゲイン(エナメルマトリックスプロテイン)などの再生材料を使用し、根面を再生させる手法。
  • 適応:
    • 歯間乳頭の喪失がないRT1やRT2のケース。
    • 知覚過敏の緩和が特に求められる場合。
  • 利点:
    • 根面被覆と歯周組織再生を同時に達成。
    • 再生因子の効果で治癒が早い。
  • 欠点:
    • 高コスト。
    • 重度の退縮には不適。


まとめ

VISTAテクニックは、高い審美性と成功率を持つ根面被覆術です。特に審美性を重視する部位や複数の歯に対応する治療に適しています。一方で、術者の技量やコスト、適応症例の限界などを考慮する必要があります。患者と十分な相談を行い、適切な治療法を選択することが重要です。


術式選択のポイント

1. 退縮の程度と範囲

  • 軽度~中程度の退縮(MillerクラスI, II; Cairo RT1): 冠側移動弁術(CAF)が第一選択。
  • 重度の退縮や広範囲のケース(MillerクラスIII, IV; Cairo RT2, RT3): CTGや再生療法を併用。

2. 歯肉の厚みと幅

  • 歯肉が薄い場合: CTGで厚みを増加させる。
  • 角化歯肉幅が狭い場合: FGGで幅を確保。

3. 審美的ニーズ

  • 前歯部や審美性が重視される場合: CTGやトンネル法を優先。

術式ごとの成功率

エビデンスに基づく比較では以下の通りです:

術式 完全被覆率 長期安定性 患者の負担
冠側移動弁術 85〜100% 良好
CTG 90〜100% 非常に良好 中程度
FGG 70〜85% 良好
再生療法 80〜95% 良好 中程度
トンネル法 85〜100% 非常に良好

まとめ

根面被覆の術式選択は、患者の状態、治療目標、審美的・機能的要求に基づいて慎重に決定されます。術式ごとの利点と欠点を考慮し、患者との十分なコミュニケーションを通じて最適な治療計画を立てることが重要です。

2. 術前準備

  • 口腔内清掃
    • プラークや歯石の除去(スケーリングやルートプレーニング)。
    • 必要に応じて抗菌治療を行う。
  • 歯肉の健康状態の改善
    • 炎症を取り除くことで、術後の治癒を促進します。

3. 麻酔

  • 治療する部位に局所麻酔を施します。
  • 麻酔により手術中の痛みを感じにくくします。

4. 歯肉の形成

  • 受容床の作成
    • 歯肉が退縮している部位の歯肉を慎重に切開し、歯肉移植のための「受容床」を作ります。
    • このステップでは歯肉を持ち上げ、根面が露出します。

リグロス(歯周組織再生材)やエムドゲイン(エナメルマトリックスタンパク質)の根面被覆術における併用効果

リグロスやエムドゲインは、歯周組織の再生を促進するために開発された生物学的材料です。これらを根面被覆術に併用することで、歯肉退縮治療の成功率や長期的な予後を向上させることができます。


リグロスとエムドゲインとは

1. リグロス(Regroth)

  • 主成分: 塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)
  • 作用:
    • 線維芽細胞、血管内皮細胞、セメント芽細胞を活性化し、歯周組織(セメント質、歯槽骨、歯根膜)の再生を促進します。
  • 適応:
    • 主に歯周ポケットの減少や骨欠損部の再生に用いられますが、歯肉退縮の治療にも効果的。

2. エムドゲイン(Emdogain)

  • 主成分: エナメルマトリックスタンパク質(主にアメロジェニン)
  • 作用:
    • エナメル形成期に似た環境を再現し、セメント質、歯根膜、歯槽骨の再生を促進。
    • 歯肉と歯根表面の生物学的接着を強化。

併用する利点

1. 歯周組織再生の促進

  • エビデンス:
    • 多くの研究で、リグロスやエムドゲインを併用することで、歯肉退縮の改善と歯周組織再生の両方を達成できることが示されています。
    • 特に2015年のNakamuraらの研究では、bFGF(リグロス)の使用により、歯周組織の再生が顕著に向上したと報告されています。

2. 治癒速度の向上

  • 生物学的因子が線維芽細胞や血管の増殖を促進するため、術後の治癒が早まり、患者の不快感が軽減されます。

3. 歯肉の厚みの増加

  • エムドゲインは、歯肉と歯根表面の接着を強化し、厚みを増加させることで審美的かつ機能的な改善を促します。

4. 知覚過敏の軽減

  • 再生された組織が歯根を完全に覆うことで、知覚過敏の症状が大幅に緩和されます。

5. 長期安定性の向上

  • 再生因子により形成された新しい歯肉と歯根の結合組織は、従来の術式よりも安定性が高く、再退縮のリスクが低減します。
  • Wennströmらの長期研究(2014)では、エムドゲイン併用で10年以上の安定した結果が確認されています。

治療プロトコルでの使用例

  1. 術前準備
    • 根面を十分に清掃(スケーリング、ルートプレーニング)し、滑らかな表面を作る。
    • ルートコンディショニング(EDTAなど)で根面の親水性を高める。
  2. リグロスやエムドゲインの適用
    • リグロス: bFGF溶液を患部に塗布。
    • エムドゲイン: 根面に直接塗布し、再生環境を形成。
  3. 結合組織移植術の併用
    • 必要に応じて、結合組織移植を併用し、再生材を安定させます。
  4. 縫合と術後管理
    • 移植片と再生材を固定するため、丁寧に縫合。
    • 術後、抗菌剤や抗炎症剤を処方し、適切なケアを指導。

併用に関するエビデンス

1. 完全被覆率の向上

  • Tonettiら(2014)のメタアナリシスでは、エムドゲインを使用したグループの完全被覆率が有意に高いと報告されています。

2. 再生効果の強化

  • Sanzら(2019)の臨床研究では、リグロスを使用することで歯周組織再生の速度が向上し、審美的・機能的な結果が改善したことが示されています。

3. 患者満足度

  • 再生材の併用により術後の痛みや不快感が軽減し、患者満足度が向上することが報告されています。

併用の課題と注意点

  1. コストの増加
    • リグロスやエムドゲインは高価であるため、患者の負担が増える可能性があります。
  2. 適応症の制限
    • 重度の歯肉退縮(歯槽骨が大きく失われている場合)では効果が限定的な場合があります。
  3. 手技の複雑さ
    • 再生材の適用には高い技術が必要で、経験豊富な歯科医師が行うべきです。

結論

リグロスやエムドゲインを根面被覆術に併用することで、治療の成功率、患者満足度、長期安定性が大幅に向上します。エビデンスも豊富であり、特に審美的改善や知覚過敏の軽減を重視する患者にとって有益な選択肢です。患者の状態や予算に応じて、これらの再生材を組み込む治療計画を検討するのが望ましいでしょう。

5. 歯肉移植

  • 供給部位からの採取
    • 移植する歯肉(結合組織)は、主に上顎の口蓋(口の天井部分)から採取します。
    • 採取部分は術後に縫合されます。
  • 移植片の設置
    • 採取した結合組織を受容床に配置します。
    • 正確な位置決めが必要で、歯根を覆うように調整します。

根面被覆における結合組織移植術(CTG: Connective Tissue Graft)の併用について

結合組織移植術は、歯肉退縮の治療において最も信頼性が高く、予後の良い手法の一つとされています。この手法を根面被覆と併用することで、審美性と機能性の両方を最大限に向上させることができます。


結合組織移植術を併用する利点

  1. 治癒成功率の向上
    • 複数の研究から、結合組織移植を併用した根面被覆術では、完全被覆(100%の歯根被覆)が高確率で達成されることが示されています。
    • たとえば、Arocaらの研究(2009)では、CTG併用群の歯肉再生率が他の方法に比べて優れていると報告されています。
  2. 歯肉厚みの改善
    • 結合組織移植は、移植部位の歯肉厚みを増加させます。
    • 歯肉が厚くなることで、長期的な安定性が向上し、再退縮のリスクが軽減されます。
  3. 審美的結果の向上
    • 特に前歯部など、審美性が重要な部位では、自然な歯肉の形態を再現するのに役立ちます。
    • 自然な歯肉の色調と質感を得られるため、患者の満足度が高い結果となります。
  4. 知覚過敏の軽減
    • 歯根が完全に覆われることで、知覚過敏が著しく緩和されます。
    • 一般的に、CTGを併用した患者は、術後の知覚過敏の減少をより強く実感する傾向があります。
  5. 長期的安定性
    • Wennströmらの研究(1996)によれば、CTG併用術式は、10年以上の追跡調査でも安定性が高い結果を示しています。

結合組織移植術の手順

1. 組織採取

  • 上顎口蓋から結合組織を採取します。
  • 採取部位は外科的に最小限の損傷を考慮して処理され、痛みを軽減します。

2. 根面被覆の準備

  • 根面の清掃と滑らかに整える処置(ルートプレーニング)を行い、移植片を固定しやすい基盤を作ります。

3. 結合組織の配置

  • 採取した結合組織を退縮部に配置し、歯肉が歯根を覆うように縫合します。

4. 縫合と術後ケア

  • 歯肉を固定し、適切な治癒を促します。

エビデンスに基づく比較

1. 結合組織移植併用 vs 非併用

比較項目 CTG併用 CTG非併用
歯根被覆率 高い(85〜100%) 中程度(60〜80%)
歯肉厚み 顕著に改善 改善効果が限定的
長期安定性 優れている 再退縮のリスクがある
審美的結果 非常に良好 変化が目立つ場合がある
知覚過敏の改善 ほぼ完全に改善 部分的な改善

2. 複数の研究からの証拠

  • Cortellini & Bissada(2018)
    CTG併用の根面被覆は、審美性と機能性の改善においてゴールドスタンダードと評価されています。
  • Tonettiら(2014)
    多施設試験において、CTGを併用した治療は患者の満足度と治療成功率で一貫して高いスコアを獲得。

結合組織移植術の課題

  • 供給部位の不快感
    採取部位(口蓋)に一時的な痛みや腫れを感じる場合があります。
    • → 解決策として人工材料(例えばコラーゲンマトリックス)を一部代替することが可能。
  • 手技の複雑さ
    高度な技術を要するため、経験豊富な歯科医が必要。

結論

結合組織移植術は、根面被覆の成功率、安定性、審美性を大幅に向上させる治療法です。エビデンスも多く、特に重度の歯肉退縮や審美的な改善が求められる場合には推奨される手法です。治療の選択肢については、患者個々の状態に合わせた相談が重要です。

6. 縫合

  • 歯肉移植片を縫合して固定します。
  • 縫合糸は通常、自然に溶ける吸収性の糸を使用します。

7. 術後処置

  • 消毒や歯肉保護のために特殊な包帯(歯周パック)を装着することがあります。

術後のケアと管理

1. 初期の回復期間(1~2週間)

  • 食事の注意
    • 柔らかい食品を摂取し、硬い食べ物や熱い食べ物は避けます。
  • 口腔衛生
    • 術後1週間程度は治療部位を直接ブラッシングしない。
    • 抗菌性マウスウォッシュの使用が推奨される場合があります。

2. 縫合の除去(必要に応じて)

  • 非吸収性糸の場合、1~2週間後に除去します。

3. 定期検診

  • 治癒の状態を確認し、追加治療が必要か評価します。

4. 長期管理

  • ブラッシング指導や噛み合わせ調整を行い、再発を防ぎます。

治療後の期待される効果

  1. 美観の改善
    • 歯肉が健康的に再生され、歯の見た目が良くなります。
  2. 知覚過敏の緩和
    • 露出した歯根が覆われることで、温度刺激や痛みが軽減します。
  3. 歯周組織の健康維持
    • 歯肉退縮の進行が抑えられ、歯の寿命が延びます。

治療のリスクと注意点

  • 治癒期間の不快感
    • 口蓋からの組織採取により、しばらく痛みを感じる場合があります。
  • 成功率
    • 患者の健康状態や歯周病の有無によって結果が異なります。
  • 再発の可能性
    • 不適切なブラッシングや歯周病が再発すると歯肉退縮が再び起こる場合があります。

根面被覆は見た目だけでなく、口腔全体の健康維持に重要な治療です。専門の歯科医師と相談し、自分に適した治療を受けることが大切です。