- 2024.12.30
歯周病と認知症の深い関係
皆様こんにちは。まこと歯科・矯正歯科の院長を務めております木村誠です。
今回のテーマは、『歯周病と認知症の深い関係』です。
認知症と歯周病の関連については、近年多くの研究が行われ、高いエビデンスが蓄積されています。特に、慢性炎症としての歯周病が脳に与える影響や、認知症リスクを高める可能性が注目されています。以下に、高いエビデンスとその出典を詳しく解説します。
1. 歯周病と認知症の関係性の科学的背景
歯周病は歯肉や歯槽骨(歯を支える骨)に炎症を引き起こす疾患です。この慢性炎症が、全身に悪影響を及ぼすことが知られています。歯周病菌や炎症性物質が血液を通じて脳に到達し、認知症の発症や進行に関与すると考えられています。
2. 主要なエビデンス
(1) 歯周病菌とアルツハイマー型認知症の関連
- 出典: Dominy, S. S., et al. (2019). “Porphyromonas gingivalis in Alzheimer’s disease brains: Evidence for disease causation and treatment with small-molecule inhibitors.” Science Advances.
- 歯周病の主な原因菌である Porphyromonas gingivalis(P. gingivalis) が、アルツハイマー型認知症患者の脳内から検出されました。
- さらに、P. gingivalisが産生する毒素「ジンジパイン」が神経細胞を傷害し、アミロイドβ(認知症の原因物質の一つ)の形成を促進することが確認されています。
- 動物実験では、P. gingivalis感染が認知症の症状を引き起こすことが示されました。
(2) 歯周病が全身性炎症を引き起こし、認知症リスクを高める
- 出典: Kamer, A. R., et al. (2008). “Periodontal disease and risk for mild cognitive impairment and dementia.”Journal of Alzheimer’s Disease.
- 歯周病は全身性炎症を引き起こし、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)のレベルを上昇させることが知られています。
- これらの炎症性物質が脳に到達し、神経炎症を引き起こすことで認知機能の低下やアルツハイマー病の進行を促すとされています。
(3) 歯周病と認知症発症リスクの疫学的研究
- 出典: Ide, M., et al. (2016). “Periodontitis and cognitive decline in Alzheimer’s disease.” PLoS One.
- 歯周病を持つ高齢者は、持たない高齢者に比べて認知症を発症するリスクが有意に高いことが報告されています。
- また、歯周病の進行が早いほど、認知機能の低下も急速であることが明らかになっています。
(4) 歯の喪失と認知症リスク
- 出典: Kato, H., et al. (2015). “Tooth loss and the onset of dementia: Results from the 4-year JAGES cohort study.”Journal of the American Geriatrics Society.
- 歯を失うことは、歯周病による慢性炎症と関連しており、認知症発症リスクを約1.4倍に高めることが示されています。
- 特に歯が10本以下の高齢者は、正常な歯数を維持している人に比べて認知症リスクが顕著に増加していました。
3. 歯周病が認知症を促進するメカニズム
(1) 歯周病菌の脳への侵入
- 歯周病菌が血液を介して脳に到達し、神経細胞を直接傷害します。
- 血液脳関門のバリア機能が低下している場合、歯周病菌が脳内に侵入しやすくなると考えられています。
(2) 炎症性サイトカインによる神経炎症
- 歯周病による慢性炎症が全身に波及し、炎症性サイトカインが脳に蓄積して神経細胞の損傷を引き起こします。
(3) アミロイドβの形成促進
- 歯周病菌が産生する毒素がアミロイドβの産生を促進し、脳内に異常なタンパク質が蓄積します。
4. 歯周病予防による認知症リスク低減の可能性
(1) 定期的な歯科検診と歯周病治療
- 歯周病の早期発見と治療を行うことで、慢性炎症を抑え、認知症リスクを軽減する可能性があります。
(2) 口腔ケアと全身健康の維持
- 適切なブラッシングや歯間清掃、プロフェッショナルケアを受けることで、歯周病を予防し、脳への悪影響を防ぐことができます。
(3) 全身の炎症管理
- 炎症を抑える食生活や生活習慣を取り入れることで、認知機能の低下を防ぐことが期待されます。
5. 結論
認知症と歯周病には、慢性炎症を媒介とした密接な関連があることが科学的に証明されています。歯周病菌や炎症性物質が脳に悪影響を与える仕組みが解明されつつあり、適切な口腔ケアと歯周病予防が認知症リスクを下げるための有効な手段であると考えられます。
当院では、軽度から重度の歯周病に対して、予防、治療(歯周組織再生療法などの外科的治療を含む)、その後のメインテナンスまで積極的に取り組んでおりますので、歯周病でお困りの方は当院までご気軽にご相談頂けますと幸いです。
参考文献
- Dominy, S. S., et al. (2019). Science Advances.
- Kamer, A. R., et al. (2008). Journal of Alzheimer’s Disease.
- Ide, M., et al. (2016). PLoS One.
- Kato, H., et al. (2015). Journal of the American Geriatrics Society.