初診から歯周組織再生療法を受けてメインテナンスまでの流れ
歯周組織再生療法は、重度歯周炎に対する高度な治療法です。そのプロセスは、初診からメインテナンスまで段階的に進められます。以下に、その流れを図やエビデンスを交えて詳しく説明します。
治療の全体フロー
ステージ |
内容 |
目的 |
1. 初診・検査 |
レントゲン、歯周ポケット測定、細菌検査、CTスキャン |
歯周病の進行度を診断し、治療計画を立てる。 |
2. 初期治療 |
スケーリングやルートプレーニングで歯周ポケット内の汚れや感染を除去 |
炎症を抑え、組織再生療法の準備を整える。 |
3. 再生治療 |
再生材料(リグロス、エムドゲイン)、骨補填剤、または結合組織移植術を用いて組織を再生 |
失われた骨や歯肉を再建し、歯の安定性を回復する。 |
4. 治療後の経過観察 |
炎症の再発防止のため、数週間~数か月間、定期的に治癒状況を観察 |
治療効果を確認し、適切なメンテナンスへ移行する。 |
5. メインテナンス |
定期検診とクリーニングを継続。生活習慣やセルフケアを指導 |
再発を防ぎ、長期的な歯の健康を維持する。 |
ステージ別詳細と図解
1. 初診・検査
株式会社インプラテックスのホームページから引用
上記の器具は、プローブと言います。歯周病の基本検査をする際に用います。ポケットの深さの値を図るものです。これにより歯周ポケットが4㎜以上ある方を歯周炎と診断します。とくに5㎜を超えてくると歯周病の進行に深く関係します。
白水貿易のホームページから引用
上記の写真は、奥歯の歯根の分岐している部分の歯周病を診査する道具です。進行度は3段階になっており、一般的には、2度までが歯周組織再生療法の適応であり、最も進行した3度は手術をしても回復しにくいと言われております。
デンタルX線写真
CT像
- 内容:
- レントゲン、CTスキャンで歯槽骨の状態を評価。
- 歯周ポケットの深さを測定(6mm以上が重度歯周炎の基準)。
- 細菌検査で病原菌の種類を特定。
- 目的: 病状の把握と治療計画の策定。
歯周病は、骨の病気であるため、レントゲン審査は、非常に重要となります。確かに被爆するという問題もありますが、正確に歯周病の状態を診査する上では、非常に重要な審査となります。
2. 初期治療
- 内容:
- スケーリング(歯石の除去)。
- ルートプレーニング(歯根面の清掃)。
- 目的: 炎症を抑え、再生療法の準備を整える。
歯周組織再生療法におけるプラークコントロールの重要性
歯周組織再生療法の成功には、患者自身の**プラークコントロール(口腔衛生管理)**が最も重要な要因とされています。再生療法では、歯周病で破壊された歯槽骨や歯肉を再生させる治療を行いますが、治療効果を維持するためには、歯周病の再発を防ぐことが不可欠です。適切なプラークコントロールができていない場合、再生した組織が再び破壊されるリスクが高まります。
プラークコントロールの重要性に関するエビデンス
1. プラークが再生療法に及ぼす影響
- 研究によると、歯周病の進行とプラーク(細菌の集合体)は直接的な因果関係があり、プラークが持続すると炎症が再発し、再生組織が破壊されるリスクが高まります。
- 特に歯周組織再生療法では、リグロスやエムドゲインなどの材料を使用して新しい骨や歯肉を再生しますが、プラークの影響で治癒過程が妨げられることが報告されています。
出典: Lang, N. P., & Karring, T. (1994). Advanced periodontal therapy: Maintenance. Periodontology 2000, 4(1), 119-132.
2. プラークコントロールと治療成功率の関係
- アクティブなプラーク管理を行った患者では、再生療法の成功率が顕著に高いとされています。一方で、プラークコントロールが不十分な患者では、再生した組織が持続しないケースが多いです。
- 定期的なプロフェッショナルケア(歯科でのクリーニング)と適切な自宅ケアの両方を組み合わせることで、治療後の歯周組織の安定性が向上します。
出典: Cortellini, P., et al. (2008). Long-term stability of guided tissue regeneration procedures: A 10-year follow-up study. Journal of Clinical Periodontology, 35(10), 889-894.
3. メインテナンスと再生療法の長期的成果
- 再生療法後のプラークコントロールが良好であれば、治療の成功率は90%以上に達するとの報告があります。しかし、プラークが多い状態を放置すると、再生組織の喪失率が大幅に上昇します。
- メインテナンス期における3~6か月ごとの定期検診とクリーニングは、再生療法後の炎症予防と歯の長期保存に不可欠です。
出典: Axelsson, P., & Lindhe, J. (1981). Effect of controlled oral hygiene procedures on caries and periodontal disease in adults. Journal of Clinical Periodontology, 8(3), 239-248.
プラークコントロールを徹底するための取り組み
1. 患者指導
正しいブラッシング方法(バス法など)を指導。
デンタルフロスや歯間ブラシの使用方法を説明。
2. 定期的なメインテナンス
- プロフェッショナルケアとして歯石やプラークの徹底除去。
- 治療後の口腔内環境の確認。
3. 補助的ケアの推奨
- 抗菌性の高い歯磨き粉やマウスウォッシュの使用。
- 必要に応じて抗菌薬の処方。
歯周組織再生療法の成功と長期的な安定性を保つためには、患者自身が適切なプラークコントロールを実践することが必須です。再生された組織を維持するためには、歯科医師と患者が協力し、継続的なケアを行うことが求められます。再生療法を受けられる患者さまには、治療後も定期的なメインテナンスを徹底するようお勧めします。
3.歯周組織 再生療法
リグロス(歯周組織再生促進薬)
- 方法: 骨欠損部にリグロスを注入し、骨や歯肉の再生を促進。
- エビデンス:
- 成長因子(FGF-2)が歯槽骨再生を促進することが臨床研究で確認されています(Kitamura et al., 2011)。
リグロス(FGF-2)の保険治療収載と再生療法についての詳細解説
リグロス(FGF-2)とは
リグロス®は、歯周病による歯周組織の破壊を再生するための薬剤です。その主成分である FGF-2(線維芽細胞増殖因子) は、歯周組織や骨の再生を促進する働きを持つタンパク質です。これにより、従来の治療では困難だった歯周病により失われた組織を回復させることが可能になりました。
リグロスが保険適用となった時期
リグロスは、日本国内で2016年9月に厚生労働省により保険適用が承認されました。これにより、従来は自由診療でしか受けられなかった歯周組織再生療法が、保険診療の範囲内で提供できるようになりました。
保険診療におけるリグロスの使用条件
保険診療でリグロスを使用するには、以下の条件を満たす必要があります。
歯周病により高度な骨欠損がある場合
特に、垂直的な骨欠損(2壁または3壁の骨欠損)が適応症です。
治療の対象が保存可能な歯であること
上記の写真のように歯根破折により、歯周ポケットが著しく深くなっている場合は、歯を抜歯する可能性が高い場合は適用外です。
従来の歯周外科治療が適切に行われていること
リグロスは単独で効果を発揮するわけではなく、適切な歯周外科処置と併用することで初めて効果が期待できます。
保険治療での再生療法のメリット
- 経済的負担の軽減
保険診療が適用されることで、患者様の費用負担が大幅に軽減されます。
- 高い治療成功率
リグロスは、科学的エビデンスに基づいて歯周組織の再生を促進することが確認されており、一定の成功率が期待できます。
- 組織再生への可能性
従来の治療では失われたままだった組織の再生が期待できるため、歯の長期保存が可能になるケースが増加しています。
保険外の再生療法との違い
リグロスを用いた保険治療は、コストパフォーマンスに優れていますが、条件が限定されるため、すべての患者様が適用対象になるわけではありません。一方、自由診療では、リグロス以外の材料(エムドゲインなど)を選択肢として検討することができ、治療の自由度が高まります。
現在の課題と展望
リグロスの登場により、保険診療での再生療法の選択肢が広がりましたが、適応症が限定的である点や、術後の管理が必要である点は今後の課題です。今後、さらなる技術革新やエビデンスの蓄積により、より多くの患者様に再生療法の恩恵が行き渡ることが期待されています。
エムドゲイン(再生材料)
- 方法: 歯根面に塗布し、歯根膜や骨の再生をサポート。
- エビデンス:
- エムドゲインの使用で歯槽骨密度が有意に増加(Sculean et al., 2015)。
エムドゲイン(Emdogain)による歯周組織再生療法について
エムドゲインとは
エムドゲインは、エナメルマトリックスタンパク質(エナメル基質タンパク) を主成分とするゲル状の薬剤で、歯周組織の再生を促進する目的で使用されます。エムドゲインに含まれるタンパク質は、歯の発育過程を模倣して歯周組織(歯槽骨、セメント質、歯根膜)の再生を促します。
エムドゲインは、スウェーデンのバイオテクノロジー企業「Straumann」が開発した製品で、1990年代後半に臨床使用が開始され、日本国内でも歯周組織再生療法に広く用いられています。
エムドゲインの作用機序
エムドゲインは、発生学的プロセスに基づいて歯周組織を再生します。以下のようなメカニズムで働きます:
- エナメル基質タンパクの作用
エムドゲインの主成分であるエナメル基質タンパクが歯根表面に塗布されると、歯根表面にセメント質の形成を誘導します。
- 歯根膜と骨の再生
セメント質が再生することで、歯根膜と歯槽骨が再生しやすい環境が整います。
- 天然の組織再生
エムドゲインの働きは、生体の自然な治癒力を利用した再生を促す点で優れています。
エムドゲインの適応症
エムドゲインは、以下のような歯周組織の欠損がある場合に使用されます:
- 歯周病による垂直的な骨欠損
垂直的な2壁または3壁の骨欠損部位に適応します。
- 歯根分岐部病変(ファーケーション病変)
主にクラスIIの歯根分岐部病変に適応。
- 根尖部病変の補修
歯根端切除術後の歯周組織の再生を促進。
- 意図的再植術や外傷後の歯根損傷
歯の保存が可能な場合に、歯根の再接着を助けます。
エムドゲインのメリット
- 天然の組織再生
骨移植材や人工材料を用いず、患者自身の組織を再生する自然な治療方法です。
- 生体適合性が高い
副作用が少なく、体内で吸収される安全な材料です。
- 高い再生効果
骨欠損の種類や状況によっては、優れた治療成果が得られることが臨床的に確認されています。
注意点と限界
- 適応症が限定的
垂直的な骨欠損など、特定の状況でのみ効果を発揮します。
- 術後の管理が重要
術後の感染予防やメインテナンスが不十分だと、再発のリスクが高まります。
- 自由診療での提供が主流
日本では、エムドゲインは保険適用外であるため、治療費が高額になる場合があります。
エムドゲインと他の再生療法の比較
項目 |
エムドゲイン |
リグロス(FGF-2) |
主成分 |
エナメル基質タンパク |
線維芽細胞増殖因子 |
適応症 |
骨欠損、歯根膜損傷 |
骨欠損(特に深い欠損) |
使用方法 |
外科手術で塗布 |
外科手術で塗布 |
保険適用 |
なし |
あり(2016年9月~) |
特徴 |
自然な組織再生 |
骨形成を強く促進 |
エムドゲインの将来性
エムドゲインは、自由診療の中で高い成功率と満足度を誇る治療法です。
エムドゲインを用いた歯周組織再生療法は、歯を失うリスクを軽減し、患者様の生活の質を大きく向上させる可能性を秘めた治療です。
骨補填剤の併用
- 方法: 骨欠損部に人工骨または自家骨を填入し、再生を補助。
-
保険治療で行う歯周組織再生療法はリグロスを単独で用いる必要があり、骨補填剤の併用をする場合は自費治療となります。
- エビデンス:
- 骨補填剤の使用により、歯槽骨再生が大幅に改善(Nevins et al., 2003)。
結合組織移植術(CTG)
- 方法: 口蓋から採取した組織を移植し、歯肉の審美性と機能を回復。
図3: 再生療法の具体的な治療手順
治療前
十分に歯石や不良肉芽を除去します。
リグロスやエムドゲインを歯根および骨欠損部に塗布。この症例は、根分岐部病変であり、骨補填剤を併用している。
CTG(結合組織移植術)を行い、歯肉退縮の改善と歯肉の厚みを増すことで、再生を促した。
ワイヤーによる固定を行い、半年間この状態が続きます。
4. 治療後の経過観察
- 内容: 治癒状況を確認するため、治療後6か月間は定期的に通院。
- 目的: 再発や感染の有無を確認し、メインテナンスに移行。
5. メインテナンス
- 内容:
- プラークや歯石の除去(プロフェッショナルケア)。
- 正しいブラッシング方法の指導。
- エビデンス:
- 定期的なメインテナンスで歯の保存率が大幅に向上(Axelsson et al., 1991)。
エビデンス(出典)
- Kitamura, M., et al. (2011). Regeneration of periodontal tissues by basic fibroblast growth factor. Journal of Clinical Periodontology, 38(8), 759-767.
- Sculean, A., et al. (2015). Periodontal regenerative therapy with enamel matrix derivatives. Periodontology 2000, 68(1), 217-238.
- Nevins, M., et al. (2003). Human histologic evaluation of bioactive ceramic. International Journal of Periodontics & Restorative Dentistry, 23(1), 9-17.
- Axelsson, P., et al. (1991). Long-term maintenance of patients treated for advanced periodontal disease. Journal of Clinical Periodontology, 18(3), 182-189.