- 2024.04.12
歯が短くなってきた。歯が削れてすり減ってきた。歯が溶けてきた。
皆さん、こんにちは。まこと歯科・矯正歯科院長の木村誠です。
表題の症状は、「Tooth Wear」と呼ぶ疾患に罹患している可能性があります。
「tooth wear」とは、歯の表面が摩擦や酸性の影響などによって徐々に削られる現象を指します。歯の摩耗は、年齢とともに自然に進行する場合がありますが、異常な歯の摩耗は、歯科的な問題や疾患の兆候であることがあります。
歯の摩耗は、大きく以下の3つのタイプに分類されます:
- 歯質摩耗(tooth surface loss):歯の表面が摩擦や酸性によって直接削られる現象です。これには、摩擦による摩耗(咀嚼や歯磨きによる摩耗)、酸性摩耗(酸性食品や飲料、胃酸などによる摩耗)、化学的摩耗(歯科治療や噛み合わせの変化による摩耗)が含まれます。
- 歯牙摩耗(abrasion):歯の表面が外部の摩擦力によって削られる現象です。歯ブラシの過剰な使用や歯を異物で噛むことなどが歯牙摩耗の主な原因です。
- 歯食摩耗(erosion):歯質が酸性環境にさらされることによって徐々に溶解される現象です。主な原因としては、酸性食品や飲料(炭酸飲料、柑橘類、酒類)、胃酸の逆流などがあります。
歯の摩耗が進行すると、歯の形状や機能が変化し、歯の感覚過敏や噛み合わせの問題などの症状が現れることがあります。また、歯の摩耗が進行すると、歯の損失や歯周病のリスクが増加する可能性もあります。重度の状態まで進行すると歯髄(神経)炎になり強い痛みを発症することもあります。また全顎的に進行した場合は、咬合再構築(全体的な治療)が必要になることも多いため、なるべく早く対処する必要があります。
上記の写真は、重度の「Tooth Wear」(歯が欠けたり、すり減っている)を有している患者様の口腔内写真
この方は、下の前歯がズキズキして痛むという主訴で当院に来院されました。残念ながら歯髄炎(神経の炎症)を起こしており、抜髄(神経をとる)をしなければなりませんでした。
このように虫歯が原因ではないにも関わらず、歯髄を取らないといけなくなることもあります。そしてこのような咬合力で歯がすり減っている方の場合、神経を失った歯に待ち受けるのは、歯根破折です。このような患者様は噛み合わせも安定しておらず、その後は、咬合崩壊を起こしてしまい、食事がまともに摂取できなくなってしまします。
上記の写真の患者様は、下の奥歯の義歯が安定しない、痛むので治療してほしいとのことで当院に来院されました。最初の症例と同じように下の前歯が欠けたり、すり減っていることがお分かりになって頂けると思います。向かって右端の歯は、歯冠の半分ほどの歯質が失われています。この方の歯のすり減りの原因は過剰な咬合力です。このまま放置すると手の打ちようがなくなってしまいます。
義歯が安定しなかった原因は、歯が重度にすり減ったことで、義歯の金具が上手く機能しなくなってしまっていたことです。さらに過剰な咬合力により義歯の粘膜部分は強く圧接され、痛みが出ていたのです。
この方には、インプラント治療を含めた全顎的な治療を行い、噛み合わせの安定と失われた歯の形態を再現しました。
上記写真は、治療後の口腔内です。本来の姿を取り戻すことで機能性を含めて安定した状態にすることができました。
このように「Tooth Wear」を有する患者様の治療は局所的な対応が難しく、全顎的な治療になることが多いため、このようにならないように予防する必要があります。
力(咬合力)が原因の方の予防策としましては、マウスピースを夜間装着し、問題が小さいうちにきちんと歯冠修復することです。
次に酸が原因の場合に関して説明します。いわゆる酸蝕症と呼ばれるものです。
摂食障害や逆流性食道炎などにより胃液の酸により歯が溶けてしまいまいます。
また見逃されやすいのは、酸性の強い食べ物や飲み物(酢やワイン)なども歯が溶ける原因となりますので注意が必要です。
なお、摂食障害に関しましては、摂食障害情報ポータルサイト(https://www.edportal.jp/about/about_teeth.html)をご参照ください。
酸蝕症の方の対応は、まず原因となる摂食障害や逆流性食道炎を医療機関で治療することです。そして歯冠修復が必要な方は、適切な歯科治療を受けましょう。
当院では、このような「Tooth Wear」に対する治療を積極的に行っております。歯の摩耗を管理するためには、適切な口腔衛生習慣の確立や栄養バランスの良い食事の摂取、歯科医師の定期的なチェックアップが重要です。また、当院では必要に応じて歯の保護や修復のための治療を提案することがあります。もし気になる方は、当院までお気軽にお問い合わせ下さい。