皆様こんにちは。まこと歯科・矯正歯科の院長を務めております木村誠です。
今回のテーマは、『インプラント治療の費用と寿命は?知っておきたい基本知識』です。
インプラントの成功率と寿命について:エビデンスに基づいた解説
インプラント治療は、歯を失った場合の治療法として高い成功率と長期間の使用を期待できる方法です。成功率と寿命は、患者さんの口腔状態、手術技術、メンテナンス次第で変動します。本記事では、インプラント治療の成功率と寿命について、最新のエビデンスを基に詳しく説明します。
1. インプラントの成功率
インプラント治療の成功率は非常に高く、**世界的な研究では平均で90%~98%**と言われています(出典:Albrektsson et al., 1986; Buser et al., 2012)。ただし、この成功率には以下の要因が影響します。
① 治療計画と手術技術
- インプラントを埋入する際の骨の状態や適切な位置、角度は成功率に大きく影響します。
- 適切な計画のもと手術を行えば、高い成功率が期待できます。
② 骨質と骨量
- 骨の状態は、インプラントの安定性に直結します。
- 骨が薄い場合や骨質が弱い場合(特に上顎の臼歯部)、骨再生処置(GBRなど)が行われることで成功率が向上します。
③ 患者の全身状態
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糖尿病や喫煙はインプラント成功率を低下させるリスク因子として知られています(出典:Moy et al., 2005)。
- 糖尿病が適切に管理されている場合、成功率は健康な人とほぼ同等になるという研究もあります(出典:Oates et al., 2009)。
④ 術後のメンテナンス
- インプラントは天然歯同様、適切な清掃や定期的なメンテナンスが必要です。
- インプラント周囲炎(インプラント周囲の炎症)は、放置するとインプラントの喪失につながる可能性があります。
2. インプラントの寿命
インプラントの寿命は、適切なメンテナンスと条件が整えば、20年以上機能することが可能とされています。以下に寿命に影響する要因を挙げます。
① 長期的なデータ
- 多くの研究で、インプラントの10年後の生存率は90%以上と報告されています(出典:Pjetursson et al., 2004)。
- 一部の研究では、15~20年以上問題なく機能するケースも多く見られます(出典:Esposito et al., 2011)。
② 患者の口腔衛生
- 日常的に歯磨きやフロスを行い、プラークの蓄積を防ぐことが重要です。
- 定期的な歯科医院でのプロフェッショナルケアが、インプラントの長期的な成功に寄与します。
③ 使用するインプラントの品質
- 高品質なインプラント材料や適切な設計の製品は、耐久性が高く寿命が延びる傾向にあります。
④ 咬合力と負荷
前歯が噛んでいない患者様の口腔内写真。前歯が噛んでいない方は、奥歯に負担がかかりやすいと言われております。
咬合力が強いと推測される口腔内写真(写真中央付近にこぶを認めますが、下顎骨隆起と言います。骨隆起がある方は一般的に咬合力が強いと言われております。)
- 過剰な咬合力(噛む力)がかかると、インプラントやその周囲の骨に負担がかかり、寿命が短くなる可能性があります。
- 噛み合わせの調整を定期的に行うことが寿命延長の鍵です。
- 大きな噛み合わせの変更をしない場合は、夜間マウスピースを装着することが必須となります。
3. 成功率を高め、寿命を延ばすためにできること
① 術前のリスク評価
- 糖尿病や喫煙などのリスク因子がある場合は、それを管理することで成功率が向上します。
② 適切な治療計画
- 骨量が不足している場合には、事前に骨再生処置(GBR、サイナスリフトなど)を行うことで安定性を確保できます。
③ 術後のケア
- 定期的な歯科医院でのメンテナンスを受け、インプラント周囲の清掃を徹底することが重要です。
④ 自分の生活習慣を見直す
- 喫煙を控え、健康的な食生活や適度な運動を心がけることで、全身の健康を保つと同時にインプラントの寿命を延ばすことができます。
4. インプラント治療における課題と限界
① 初期脱落のリスク
- 手術後数週間でインプラントが骨に定着しない場合、脱落することがあります。ただし、再手術が可能な場合もあります。
② 長期的な問題
- インプラント周囲炎の発症率は5~10年で10~20%程度とされており、適切な対処が必要です(出典:Klinge et al., 2005)。
5. 結論:インプラントの成功率と寿命を確保するために
インプラント治療は、高い成功率と長期的な寿命が期待できる治療法です。以下のポイントを押さえることで、より良い結果を得られるでしょう。
- 信頼できる歯科医師のもとで治療を受ける
- 自分の口腔環境に合った治療法を選ぶ
- 骨量や全身の健康状態を考慮し、適切なインプラント手術を選択しましょう。
- 術後のメンテナンスを怠らない
- 定期的なチェックと清掃で、インプラントの健康を維持できます。
インプラント治療を検討している方は、専門医とよく相談し、自分に合った治療法を選択してください。
参考文献
- Albrektsson, T., Zarb, G., Worthington, P., & Eriksson, A. R. (1986). The long-term efficacy of currently used dental implants: a review and proposed criteria of success. The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants.
- Pjetursson, B. E., et al. (2004). A systematic review of the survival and complication rates of implant-supported fixed dental prostheses (FDPs) after a mean observation period of at least 5 years. Clinical Oral Implants Research.
- Esposito, M., et al. (2011). Interventions for replacing missing teeth: different types of dental implants. Cochrane Database of Systematic Reviews.
- Moy, P. K., et al. (2005). Risk factors associated with dental implants survival: A 10-year retrospective study. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery.
今回の2つ目のテーマに移ります。
当院でインプラント治療を行う場合の費用についてご説明いたします。
1. インプラント治療の基本費用
インプラント治療の基本費用は、大きく以下の要素から成り立っています。
① 1次手術:インプラント体(人工歯根)埋入の費用
- 費用の目安:1本あたり220、000~275、000円程度
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内容:顎の骨に埋め込むチタン製の人工歯根の材料費と手術費用を含みます。当院では、世界的シェアNo.1のストローマン社のインプラントを初め様々な症例に対応できるよう数種類のメーカーのインプラントを取り扱っております。安価で劣悪なインプラントは当院では使用しておりません。
サージカルガイドを使用する場合 1装置55、000〜100、000円
安心・安全にインプラント治療を行う上で必須の装置です。
② 2次手術:費用
- 費用の目安:55、000円~100、000円程度
- 内容:人工歯根と上部構造(被せ物)を連結する部品で、材質により費用が異なります(チタン製やジルコニア製など)。
③ 上部構造(人工歯)の費用
- 費用の目安:110、000〜165、000円程度
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内容:セラミックやジルコニアで製作される人工歯は、天然歯に近い色調や強度を備えています。当院では、非常に信頼性の高い技工所と提携しており、天然歯と見間違えるほどの高品質な上部構造をご提供しております。この点が、費用を抑えたインプラント治療を行う歯科医院との差別化ポイントとなっています。
合計基本費用
1本のインプラント治療にかかる基本的な費用は、約40万円~50万円が目安です。
2. 費用が増加するケース:追加処置が必要な場合
インプラント治療を成功させるためには、埋入予定部位の**骨(硬組織)と歯肉(軟組織)**が十分な条件を満たしている必要があります。これらの状態によって、追加の処置が必要となり、治療費が増加する可能性があります。
① 骨量不足のための処置(GBRやソケットリフトなど)
インプラントを埋め込むためには、十分な骨の高さと厚みが必要です。骨量が不足している場合、以下の処置が行われます。
- GBR(骨誘導再生術)
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- 費用の目安:55、000~165、000円程度
- 内容:人工骨材や自家骨を使用し、骨量を増やす処置。
- 適応:顎骨が薄い・高さが足りない場合。
- ソケットリフト/サイナスリフト
治療前の上顎洞のCT像。インプラントを安全に埋入できる骨量ではないことが分かります。
- サイナスリフト後のCT
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- 費用の目安:55、000~165、000円程度
- 内容:上顎の骨が不足している場合、上顎洞の底部を持ち上げて骨を増やす処置。
- 適応:上顎臼歯部の骨量不足。
② 歯肉の量や質を改善する処置(CTGやFGGなど)
健康で十分な歯肉がない場合、インプラント周囲の組織が安定せず、見た目や機能面に影響を及ぼします。そのため、歯肉を増やす処置が必要になることがあります。
- CTG(結合組織移植術)
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- 費用の目安:55、000〜110、000円程度
- 内容:患者自身の歯肉を採取して移植し、歯肉の厚みを増やす処置。
- 適応:歯肉が薄い場合や、審美性が求められる前歯部など。
- FGG(遊離歯肉移植術)
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- 費用の目安:55、000円程度
- 内容:患者自身の歯茎を採取し、インプラント予定部位に移植して角化歯肉を形成する処置。
- 適応:非角化歯肉が少ない場合や、清掃性を改善する目的。
③ その他の追加処置
- CT撮影や診断費用
- 費用の目安:27、500円(税込)
- 内容:三次元的な顎骨の状態を確認するためにCTスキャンを撮影。
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プロビジョナルレストレーション(精密な仮歯)
プロビジョナルレストレーション(精密な仮歯)を装着した状態では、機能性や清掃のしやすさを確認することができます。この仮歯の情報は、最終的な上部構造(インプラントに装着する被せ物)を作製する際の重要な参考となります。
最終上部構造装着。プロビジョナルレストレーションで経過を見てから最終上部構造に移行するため、問題が生じにくくなります。
1本11、000円〜33、000円
3. 保険適用の有無について
日本では、インプラント治療は自由診療に分類されるため、基本的に健康保険の適用外です。ただし、特定の疾患や事故による歯の欠損でインプラント治療が必要と判断される場合に限り、一部で保険が適用されることがあります。詳しくは歯科医師に相談しましょう。
4. インプラント治療費用を抑えるためのポイント
① インプラントの生涯本数を必要最小限にする。
③ メンテナンスを怠らない
治療後のメンテナンスを継続することで、長期的なトラブルを防ぎ、再治療による費用負担を軽減できます。
5. まとめ:費用は状態と治療計画に左右される
インプラント治療の費用は、1本あたりの基本的な費用に加え、骨や歯肉の状態によって追加処置が必要になる場合、大きく変動します。治療前のカウンセリングで、以下のポイントを確認しましょう。
- インプラントの基本費用
- 骨量や歯肉の状態に基づく追加処置の有無
- 治療全体の見積もり
インプラント治療を検討する際には、信頼できる歯科医師に相談し、費用や治療内容について納得のいく説明を受けることが大切です。
参考文献
- Misch CE. Contemporary Implant Dentistry. Mosby Elsevier.
- 日本口腔インプラント学会: https://www.shika-implant.org/
- Camargo, P. M., & Lekovic, V. “Gingival Grafting in Implant Therapy.” Periodontology 2000.