歯は、単に食べ物を噛むだけでなく、全身の健康や認知機能に深く関わっています。介護現場での認知症予防を考える際、咬合(噛み合わせ)の安定が非常に重要です。以下に、口腔ケアと認知症予防の関連について詳しく解説します。
口腔内から始める認知症予防の重要性
1. 咬合の安定と脳への刺激
噛む力が低下すると脳に与える悪影響
1. 噛む力の低下が認知症リスクを高める
出典: Okamoto, N., et al. (2010). “The relationship between dietary variety and cognitive function among the elderly.” Journal of Nutrition, Health & Aging.
歯の欠損や噛む力の低下は、認知症リスクを高めることが示されています。特に噛む力が低い高齢者は、認知機能の低下が進行しやすいという結果が得られています。
→噛むことは脳へ直接的な刺激を与え、認知機能の維持に寄与します。
→歯を失い補綴装置(入れ歯やブリッジ、インプラントなど)を使わないままだと、咀嚼能力が低下し、脳への刺激が減少してしまいます。
2. 合わない入れ歯の悪影響
- 合わない入れ歯を使用すると、口腔内に痛みや不快感を生じ、食事を楽しむことが難しくなります。
- このストレスは脳に悪影響を与え、認知症リスクを高める可能性があります。
3. 咀嚼能力の低下と全身の健康
噛む力が低下すると脳の機能が衰える
出典: Weijenberg, R. A. F., et al. (2013). “Mastication for the mind—the relationship between mastication and cognition in ageing and dementia.” Neuroscience & Biobehavioral Reviews.
噛む力が低下すると、脳の神経細胞への刺激が減少し、認知機能の低下や海馬の萎縮が加速される可能性があることが述べられています。
→咀嚼能力が低下すると食事内容が偏り、栄養不足や体力の低下を招きます。
→特に高齢者では、これがさらなる認知機能の低下につながることが多いです。
欠損の放置がもたらすリスク
3. 歯の本数と認知症の関連
- 出典: Takeuchi, K., et al. (2019). “Tooth loss and risk of dementia in the community: the Hisayama Study.” Journal of the American Geriatrics Society.
- 歯の本数が少ない高齢者は、認知症の発症リスクが高いことが日本の大規模調査で報告されています。特に歯が少ない人は噛む機会が減り、それが脳への刺激不足に繋がると考えられています。
- 噛む力の低下により食べ物を細かくできず、消化器官への負担が増します。
- 社会的影響として、人前で食事をすることを避けるようになり、孤立感やうつ状態のリスクが高まります。
対策:認知症予防に有効な口腔ケア
1. 補綴装置の適切な使用
治療前
- 入れ歯やインプラントを適切に調整し、日常的に使用することで咬合を安定させます。
- 定期的に歯科医師の検診を受け、装置のフィット感を確認することが大切です。
2. 咀嚼習慣の維持
- しっかり噛む習慣を持つため、硬さや食感が異なる食材を取り入れた食事を心がけます。
3. 口腔ケアの徹底
- 歯磨きや舌清掃を日常的に行い、口腔内の衛生を保つことで健康を支えます。
まとめ
歯や入れ歯の状態は、単に食事を支えるだけでなく、認知機能や全身の健康に大きな影響を与えます。認知症予防のためには、咬合の安定を図り、噛むことを意識した生活を送ることが大切です。介護現場においても、患者様の口腔内の状況をしっかり観察し、適切なケアを提供することが求められます。