その他

  • 2024.10.17

重度の虫歯に対して歯髄(神経)を保存する治療

患者 女性
主訴・ニーズ 虫歯の治療をして欲しい
診断名・症状 上顎左側第2小臼歯う蝕
治療内容・治療費(自費診療) 歯髄保存療法22,000円 セラミックインレー66,000円 セラミック5年保証11,000円
治療費総額 99,000円
治療期間 約2週間
来院頻度 週1回程度
リスク・副作用 歯髄保存療法の主なリスク 感染リスク 歯髄保存療法では、歯の神経を完全に除去するのではなく、部分的に保存します。そのため、細菌が残存する可能性があり、将来的に感染が再発するリスクがあります。特に治療後の口腔衛生が不十分な場合、再感染の可能性が高まります。 痛みの再発 治療後、歯髄が炎症を起こして痛みが再発することがあります。保存した歯髄が予期せぬ炎症を起こすと、神経の刺激による痛みが長期間続くことがあります。痛みが続く場合、最終的には歯髄を完全に除去する根管治療が必要になることがあります。 治療の失敗 保存された歯髄が健康な状態を保てない場合、治療が失敗するリスクがあります。治療が失敗すると、歯髄が完全に死んでしまい、根管治療や場合によっては抜歯が必要になることがあります。 壊死のリスク 部分的に保存された歯髄が栄養供給や血流の不足により壊死(死んでしまう)するリスクがあります。歯髄が壊死すると、その歯は自然に修復することができず、痛みや感染の原因となります。 歯の脆弱性 歯髄保存療法後は、歯が弱くなることがあります。特に神経や歯髄が炎症を起こしていた場合、歯が脆くなり、割れやすくなるリスクがあります。これにより、将来的に歯が欠けたり、ひび割れたりする可能性があります。 治療の制限 歯髄保存療法は、すべての患者やすべてのケースで適用できるわけではありません。特に、虫歯が深く進行している場合や、歯髄がすでに重度の感染を起こしている場合、この治療法は適さないことがあります。そのため、適応が限られている点がリスクの一つです。 歯髄保存療法の副作用 一時的な痛みや不快感 治療後に一時的な痛みや不快感を感じることがあります。特に、歯髄が炎症を起こしていた場合、治療後の数日間は歯が敏感になることがあります。この痛みは通常、鎮痛薬で対処できる軽度なもので、時間とともに軽減することが一般的です。 歯の感覚過敏 治療後、冷たいものや熱いものに対して歯が一時的に敏感になることがあります。これは、保存された歯髄が外部の刺激に対して反応するために起こるもので、通常は数週間で改善します。しかし、一部の患者では長期間感覚過敏が続くことがあります。 歯の色の変化 歯髄の一部が損傷を受けた場合、治療後に歯の色が暗くなることがあります。これは歯髄の組織が壊死したり、変性を起こしたりすることによって起こります。歯の色の変化が顕著な場合、ホワイトニングやクラウンを使用して審美的な改善が必要になることがあります。 根管治療への移行 歯髄保存療法が失敗した場合、最終的に根管治療が必要になることがあります。治療後に歯が再び感染したり、痛みが再発した場合、歯髄を完全に除去する根管治療に移行しなければならない場合があります。 歯肉の炎症や腫れ 治療後、歯肉に一時的な炎症や腫れが生じることがあります。これは手術や処置による影響で、通常は数日から1週間程度で治まります。歯肉が治癒する間は、炎症を抑えるために適切な口腔衛生管理や抗生物質が処方されることがあります。 注意点 適切な診断が必要: 歯髄保存療法が適しているかどうかを判断するためには、詳細な診断が必要です。X線や歯科用CTなどで歯や歯髄の状態をしっかり確認し、治療の適応があるかどうかを判断します。虫歯の進行具合や歯髄の健康状態によっては、保存が難しい場合があります。 術後のケアが重要: 歯髄保存療法後の口腔衛生が治療の成功に大きく影響します。治療後は適切なブラッシングやフロス、定期的な歯科検診を受け、感染や虫歯の再発を防ぐ必要があります。 患者の全身的な健康状態: 歯髄保存療法の成功は、患者の全身的な健康状態にも影響されます。糖尿病や喫煙などは治癒能力に影響を与えるため、これらの要因がある場合、治療の成功率が下がる可能性があります。 まとめ 歯髄保存療法は、歯を可能な限り自然の状態で保つことを目指す有効な治療法ですが、リスクと副作用もあります。感染や痛みの再発、治療の失敗、歯の脆弱性などがリスクとして挙げられます。また、感覚過敏や一時的な痛み、歯の色の変化といった副作用が発生することがあります。

皆様こんにちは。まこと歯科・矯正歯科の院長をしております木村誠です。

今回は、重度に虫歯が進行し、従来は歯髄(神経)を除去する必要があった歯に対してMTAセメントとセラミック修復により歯髄を保存できた症例をご紹介致します。

治療前の上顎左側第2小臼歯。この写真からは、重度に虫歯が進行しているとは、想像がつかないかもしれません。

レントゲンの黄色い丸で囲った部分にレントゲン透過像を認めます。かなり歯髄に近接した部分まで虫歯が進行していることが分かりました。

ラバーダム防湿下で、虫歯を除去している途中の写真です。全て虫歯を除去したところ露髄(歯髄に穴が開くこと)しました。因みに上記の写真の歯と歯の間にあるのは、虫歯ではない隣の歯に削る器具が接触しないようガードする金属の器具です。

露髄(神経の露出)部分をMTAセメントというセメントで封鎖することで、歯髄を保存できる可能性が高くなります。

コンポジットレジンにて暫間的に修復し、痛みが出ないかを経過観察しました。幸い自発痛(何もしなくてもズキズキして痛む)はなくセラミックにて最終修復をすることとしました。

精密なセラミック修復を行うことで、詰め物と歯との隙間から唾液が侵入するのを防ぎます。その後も経過良好で、現在は、メインテナンスで来院して頂いております。

最後に歯髄を保護する重要性についてまとめます。

歯髄を保存することが歯の寿命にとって重要である理由は、歯髄が歯全体の健康や機能に大きな役割を果たしているためです。歯髄は、歯の内部にある軟組織で、血管、神経、結合組織から構成されており、歯の栄養供給、感覚、修復機能を支えています。歯髄を保存することができれば、歯の自然な機能と構造を維持することが可能であり、歯の寿命を延ばすことができます。以下に、歯髄の役割と、歯髄を保存することがなぜ歯の寿命にとって重要であるかを詳しく説明します。

1. 歯の栄養供給と歯髄の役割

  • 歯髄は血液供給の中心: 歯髄は歯の内部に血管を供給し、栄養や酸素を歯の内部(象牙質)に運びます。歯髄を保存することで、歯の内部が適切に栄養供給され、健康な状態を維持できます。逆に、歯髄が失われると、歯は栄養供給が途絶え、時間が経つと歯の内部が脆弱になり、ひび割れや破折のリスクが高まります。
  • 歯の修復力を保つ: 歯髄は歯の損傷に対する自然な修復反応を担っています。例えば、虫歯が進行しても、初期段階であれば歯髄が歯の内部で新たな象牙質を形成し、歯を修復しようとします。この自然治癒力を保つことは、歯の長期的な健康にとって非常に重要です。

2. 歯の感覚を保つ

  • 痛みや感覚を通じて異常を知らせる: 歯髄には神経が含まれており、外部からの刺激(冷たい、熱い、甘いなど)に対する感覚を司っています。この感覚は、歯に何らかの異常が起こったときに、早期に問題を察知する役割を果たします。例えば、痛みを感じることで虫歯や歯周病の進行を早期に発見し、治療を開始することが可能です。
  • 歯の防御機能: 神経が残っていることで、歯にかかる過度な力や刺激に対して、無意識に噛む力を調整することができます。歯髄がない場合、痛みや感覚が鈍くなり、過剰な力が加わっても気づかないことがあり、歯の破折のリスクが増します。

3. 歯の強度と構造の保持

  • 歯の脱水を防ぐ: 歯髄がなくなると、歯は「死んだ歯」となり、内部の水分が失われます。これにより歯が硬く脆くなり、ひび割れや破折のリスクが増加します。特に奥歯のような大きな力がかかる歯では、歯髄を保存することで歯の弾力性が保たれ、長期的に強度が維持されます。
  • 歯の自然な寿命を延ばす: 歯髄を失った歯は、見た目や噛む機能をクラウンやブリッジで補うことができますが、天然の歯の耐久性には劣ります。歯髄を保存することにより、歯そのものが自然な寿命を保ち、インプラントや義歯などを避けることが可能となります。

4. 歯周組織との関係

  • 健康な歯髄は健康な歯周組織を保つ: 歯髄が健康であれば、それに関連する歯周組織(歯ぐきや歯槽骨)も健全に維持されやすくなります。歯髄が失われた場合、歯が弱くなるだけでなく、歯周病のリスクも高まります。歯周組織は歯の寿命を支える重要な要素であり、歯髄が健全であることで歯周病のリスクを抑え、歯全体の健康を保つことができます。

5. 治療によるリスクを減らす

  • 根管治療後の歯の脆弱性: 歯髄が失われると、通常は根管治療が行われますが、根管治療を受けた歯は、天然の歯に比べて耐久性が低くなり、将来的に割れやすくなる傾向があります。また、根管治療後には歯冠の補綴が必要になることが多く、歯の構造が大幅に変わります。歯髄保存療法を行うことで、このような侵襲的な治療を避け、歯の自然な構造と機能を保持することができます。
  • 再治療のリスクを減らす: 歯髄が保存されていることで、治療の成功率が高まり、再治療のリスクが減少します。歯髄を除去する根管治療では、長期的に再治療が必要になる場合が多いですが、歯髄を保存できればそのリスクを低減できます。

6. 審美的なメリット

  • 歯の色や見た目を保つ: 歯髄が保存されていれば、歯の内部組織が健康に保たれるため、歯の色や透明感が維持されます。歯髄を失った歯は暗く変色することが多く、審美的に問題が生じることがありますが、歯髄を保存することで、歯の自然な見た目を長く維持することができます。

まとめ

歯髄を保存することの重要性は、歯の栄養供給や感覚機能を保ち、歯の強度や寿命を維持するために不可欠である点にあります。歯髄があることで、歯は自然に修復し、外部からの刺激に対応し、健康な状態を長く維持できます。また、歯の感覚や機能が保たれることで、歯の寿命が延び、長期的な歯の健康を守ることができます。

歯髄を保存できる治療法を選ぶことで、将来的な侵襲的治療を避け、歯の自然な状態を可能な限り保つことが、歯の寿命にとって非常に重要です。