皆様、こんにちは。まこと歯科・矯正歯科の院長をしております木村誠です。
今回は、安心・安全なインプラント治療(インプラント周囲には十分な骨を)というテーマについて述べたいと思います。
インプラント治療の成功と長期的な安定性には、インプラント周囲に十分な骨が存在することが不可欠です。
インプラントを埋入する際、十分な骨がない場合、骨造成を行う必要があります。まず当院での症例を提示し、その後、インプラント周囲に十分な骨が必要であることを詳しく説明致します。
こちらの症例は、重度歯周炎により上の前歯が抜歯になった症例です。歯周病は、骨が吸収していく病気です。ので、抜歯をする時点で、かなりの骨が失われています。さらに抜歯をすることで骨は吸収します。
拡大すると抜歯した部位が周囲よりも凹んでいることが分かります。
切開・剥離すると、歯槽骨が重度に欠損していることが分かります。この状況では、インプラントを埋入すること自体難しくなります。その為骨造成処置を行うこととしました。
その他の部位にも歯周病を認めたため、歯周再生療法を行いました。
骨造成処置後約2年の状態です。歯列不正もあったため、矯正治療を行い、歯列を整えました。
欠損している前歯の部分も術前の凹んだ感じは、大分良くなりました。
切開・剥離すると骨造成処置が成功していることが分かります。
インプラントを埋入しました。
更に追加の骨造成を行うことで、更なる骨の安定を図ることとしました。骨補填剤を追加した状態
上皮の侵入を防ぐために吸収性膜を留置した状態
縫合し、手術を終了しました。
この症例のように、骨が不足している場合、インプラントを埋入することすら難しくなります。また審美領域(前歯)では、骨の不足は、審美的にも悪影響を与える可能性があるため、しっかりと骨造成をする必要があります。
それでは、最後にインプラント周囲に十分な骨が必要です。その重要性について以下にまとめます。
1. インプラントの安定性と固定
初期固定の重要性
十分な骨があることは、インプラントが初期固定(primary stability)を得るために重要です。初期固定は、インプラントが骨にしっかりと固定されることで、治癒期間中の安定性を確保します。初期固定が得られないと、インプラントの動揺が起こり、治癒不全やインプラントの失敗につながります。
長期的な固定
インプラントが骨に統合される(osseointegration)ためには、十分な骨量と骨質が必要です。統合が成功することで、インプラントは長期間にわたって安定し、機能することができます。
2. 咬合力の分散と耐久性
咬合力の吸収と分散
インプラント周囲に十分な骨があることで、咬合力(噛む力)が適切に吸収され、分散されます。骨量が不足している場合、過剰な咬合力が特定の部位に集中し、骨の再吸収やインプラントの損傷の原因となります。
耐久性の向上
骨がインプラントをしっかりと支えることで、日常の咀嚼や咬合によるストレスに耐えられるようになります。これにより、インプラントの耐久性が向上し、長期的な成功率が高まります。
3. インプラント周囲の健康維持・安定
炎症のリスク低減
インプラント周囲に十分な骨があることで、歯肉の健康も維持されやすくなります。骨量が不足している場合、インプラント周囲の歯肉が薄くなり、炎症や感染のリスクが高まります。
インプラント周囲炎の予防
骨がインプラントをしっかりと取り囲むことで、インプラント周囲炎(peri-implantitis)の予防にもつながります。インプラント周囲炎は、骨吸収を引き起こし、インプラントの安定性を損なう重大な疾患です。
4. 審美的な理由
骨の形態と歯肉のプロファイル
十分な骨があることで、インプラント周囲の歯肉の形態が自然に保たれます。特に前歯部など審美的に重要な部位では、骨の形態が歯肉のプロファイルに影響を与え、自然な見た目を維持するために重要です。
インプラント周囲組織の退縮防止
骨量が不足していると、歯肉退縮が起こりやすくなります。これは審美的な問題だけでなく、インプラントの露出による機能的な問題も引き起こします。
5. 外科的な考慮
適切な位置にインプラントを埋入するために
十分な骨があることで、インプラントを適切な位置に配置することが可能になります。骨量が不足している場合、インプラントの位置が制限されるため、最適な咬合や審美的な結果が得られにくくなります。
骨移植の必要性
骨が不足している場合、骨移植や骨造成(augmentation)などの補助手術が必要になります。これにより、手術の複雑さとリスクが増し、治療期間も延びる可能性があります。
6. 長期的な成功率
統計的データ
臨床研究により、インプラント周囲に十分な骨が存在することが、インプラント治療の長期的な成功率を高めることが示されています。十分な骨量が確保されている場合、インプラントの寿命が延び、再手術のリスクも低減します。
結論
インプラント周囲に十分な骨が存在することは、インプラント治療の成功と長期的な安定性を確保するために不可欠です。骨量と骨質が適切に確保されることで、インプラントの安定性、咬合力の分散、炎症のリスク低減、美容的な結果、手術の成功率、そして長期的な機能維持が実現されます。インプラント治療を計画する際には、事前に骨の評価を行い、必要に応じて骨造成などの補助手術を検討することが重要です。