まずは、当院で行なった治療例を提示致します。
治療前の状態。歯肉はメタルコア(金属の土台)の影響により黒変していることがわかります。またインプラント予定部位には、角化粘膜がほとんどないことがわかります。
上顎の口蓋部から遊離歯肉を移植した状態
インプラント上部構造装着時の状態。
術後2年時の状態。インプラント周囲組織は非常に安定した状態が続いており、現在は術後3年になりますが、特に問題なく経過しております。
インプラント周囲に十分な角化粘膜(keratinized mucosa)が存在することは、インプラント治療の成功と長期的な安定性にとって非常に重要です。角化粘膜は、歯肉の中でも特に頑丈で、炎症や外的刺激に対する耐性が高い部分です。以下に、その重要性を詳しく説明します。
1. インプラントの安定性と保護
歯肉の健康維持
角化粘膜はインプラント周囲の軟組織の健康を維持するのに役立ちます。角化粘膜が十分に存在することで、インプラント周囲の歯肉が強化され、炎症や感染から保護されます。これは特にインプラント周囲炎(peri-implantitis)を予防するために重要です。
歯肉退縮の防止
角化粘膜が不足している場合、歯肉が後退するリスクが高まります。歯肉退縮が起こると、インプラントの露出部分が増え、審美的な問題だけでなく、インプラントの周囲組織が炎症を起こしやすくなります。
2. プラークコントロールの向上
清掃のしやすさ
角化粘膜が十分にあると、インプラント周囲の清掃が容易になります。患者が日常的に行う歯磨きやデンタルフロスなどのオーラルケアが効果的に行えるため、プラークや歯石の蓄積を防ぎ、インプラント周囲の健康を維持しやすくなります。
3. 機械的な耐性の向上
外的刺激からの保護
角化粘膜は厚みがあり、耐性が高いため、咀嚼や歯ブラシによる機械的刺激に強いです。これにより、インプラント周囲の軟組織が外的刺激に対して耐性を持ち、傷つきにくくなります。
4. 炎症のリスク低減
バリア機能
角化粘膜は病原菌や外的刺激に対するバリア機能を果たします。このバリアがしっかりしていることで、細菌の侵入を防ぎ、炎症や感染のリスクを低減します。
5. 審美的な利点
見た目の自然さ
十分な角化粘膜があることで、歯肉の形態が安定し、インプラント周囲の見た目が自然に保たれます。特に前歯部など審美的な要素が重要な部位では、角化粘膜の存在が非常に重要です。
研究と臨床の証拠
臨床研究の結果
多くの臨床研究により、角化粘膜が少ない場合、インプラント周囲の炎症や歯肉退縮が起こりやすいことが示されています。角化粘膜が2mm以上あることが望ましく、これによりインプラントの長期成功率が高まることが確認されています。
結論
インプラント周囲に十分な角化粘膜が存在することは、インプラント治療の成功と長期的な安定性に直結します。角化粘膜は、インプラント周囲の健康を保ち、炎症や感染を予防し、審美的な結果を維持するために不可欠です。したがって、インプラント治療を計画する際には、角化粘膜の状態を評価し、必要に応じて増加させるための処置を検討することが重要です。